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更新日:2020年6月24日

富士市CKD(慢性腎臓病)ネットワークと富士市立中央病院

 腎臓病はゆっくりした経過をたどることが多く、かかりつけ医と専門医が連携して地域全体で診療してゆくことがとても大切です。富士市における腎臓病診療は富士市CKD(慢性腎臓病)ネットワークによる医師会、専門病院、行政の円滑な連携により行われています。

ネットワーク設立の背景

 CKD(慢性腎臓病)とは、「腎臓の障害(蛋白尿など)、もしくはGFR(糸球体濾過量)60ml/分/1.73平方メートル未満の腎機能低下が3か月以上持続するもの」と定義されています。
2005年の統計によると、CKD患者数は1,330万人と推測されています。CKDは透析予備軍であるにもかかわらず、その多くは無症状のため気づかれないまま進行していきます。透析患者は毎年1万人近いペースで増加し、2018年末には34万人が透析療法を受けておいでになります。さらに近年、CKDは独立した心血管疾患の重要な危険因子であり、腎機能の悪化に比例してその危険度が増加することも明らかとなり、疾病対策の重要性が注目されています。

CKDの重症度

 今、世界中でCKDに対する共通の基準のもとに診療が行われています。CKDの重症度は原疾患、腎機能(GFR区分)、蛋白尿区分によって分類されます。GFRが低く、蛋白尿が多いほど透析開始や心血管疾患(脳卒中や心筋梗塞)のリスクが高くなります。リスクの程度は緑→黄→オレンジ→赤の色のちがいで表されています。

CKDの重症度分類

事業の目的

 富士市CKDネットワークはこのような診療の標準化を背景に、CKDを早期に診断・治療することで透析導入患者数を減らし、かつ心血管疾患の危険因子を減らす目的で、富士市医師会、富士市立中央病院、富士市役所その他関係部署が立ち上げ、2013年4月に活動を開始しました。

富士市CKDネットワーク

ネットワークでは次の3点を目標としています。

  1. CKDの理解を深めること。
  2. CKDに対する適切な医療体制を整えること。
  3. 1と2を通して富士市における透析導入と心血管疾患発症の低減を図ること。

ネットワークのはたらき

1.病診連携のしくみ

 ネットワークの仕組みをご紹介します。

富士市CKDネットワーク体制図

(1)かかりつけ医

 医師会に所属する診療所や病院の先生方が中心になって、普段の診療や特定健診などを通してCKDの早期発見にあたっています。富士市では以前より特定健診で腎機能(eGFR)を検査しており、CKDを早期発見しやすい条件が整っています。

かかりつけ医

(2)腎臓専門医

 本ネットワークにおいて、腎臓専門医とは、「腎生検も含めた精査と治療」が可能な医療機関に勤務する腎臓病を専門とする医師を指します。富士市立中央病院には腎臓内科に常勤医師5名、非常勤医師1名が診療にあたっています。腎臓専門医は患者さんと相談のうえ、重症度に応じて診療方針を決定します。具体的には、軽症であればかかりつけ医による診療継続、中等症であればかかりつけ医と専門医の併診(二人主治医制)、重症であれば専門医による診療の引き継ぎというようにきめ細かい対応を行います。

腎臓専門医

(3)行政の関わり

  • CKDの正しい知識の普及

 CKDへの理解を深めるため、広報活動などを通じ広く市民に働きかけて参ります。

  • 特定健診受診率向上と受診勧奨

 市民への啓発により富士市における特定健診の受診率向上をはかっています。健康政策課では特定健診結果をもとにCKDの可能性が高い市民を受診勧奨し、かかりつけ医からの指示により、生活習慣改善指導を実施して報告します。

  • 富士市CKDネットワークのアウトカムの把握

 富士市CKDネットワークの事務局は、富士市保健部健康政策課が担当します。事務局は特定健診結果や病診連携状況の報告を受け、情報の集約、評価、結果の報告にあたります。

 2.紹介基準

 かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準は「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」等に準じて判断されますが、この紹介基準に該当しなくても、腎臓病が疑われた場合にはご紹介に適宜対処しています。

■富士市CKDネットワーク紹介基準

  1. 高度の蛋白尿(尿蛋白/Cr比0.50g/gCr以上または+以上)
  2. 尿蛋白±と血尿が1+以上
  3. eGFR 45ml/分/1.73平方メートル未満(40歳未満の若年者ではeGFR 60ml/分/1.73平方メートル未満)
  4. 3ヶ月で30%以上の腎機能の悪化を認める場合

エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018に準じる

ネットワーク発足後の富士市立中央病院の腎臓病診療

 富士市CKDネットワークが当院のCKD診療にどのような影響を与えたのか、その一端をご紹介します。

1.紹介患者数の推移

  かかりつけ医からCKDとして紹介を受けた患者さんは、ネットワーク発足前の2012年度の169名から発足した2013年には274名(約1.6倍)に増加しました。その後、増減はありますが、多くの患者さんに早期からの医療提供が可能になっています。

 2.医療水準の変化

 多くのCKD患者さんの紹介を受けるようになったことで、提供できる医療水準が向上しました。それを端的に表している一部のデータをご提示します。

(1)腎臓病への早期医療介入

 CKD診療で重要なテーマの一つが「CKDに対して早期に医療の提供を行う。」ということです。「腎臓病は治らない。」といわれることがありますが、蛋白尿・血尿などの検尿異常はあっても腎機能の低下がわずかな状態であれば治ってしまう腎臓病は少なくありません。腎生検はそのための重要な診断法です。ネットワーク発足後腎生検数が増加したのは、そのような早期の腎臓病患者さんの紹介が増えたことを表しています。 

腎臓病への早期医療介入

 

 

(2)透析導入患者数の変化

 冒頭にご紹介したようにネットワークの主な目標は、CKDを早期に治療することで透析導入を減らすことです。もちろん、治療を始めて腎機能の低下が緩やかになっても、さらに年齢を重ねる間に透析が必要になってしまうことが少なくありません。このため、活動を始めてすぐに透析導入が少なくなったわけではありませんが、2019年以降導入件数が減少し始めた可能性があります。引き続き地道な取り組みを続けながら、経過を注意深く見てゆきたいと思います。

(3)富士市の透析医療の現状

 富士市内には当院を含めて7つの透析施設があります。富士市内の透析施設では周辺地域から通院中の方を含めて1000人余りの透析患者さんが治療を受けています。当院は透析導入の増加をできるだけ緩やかにすると同時に、市内唯一の総合病院として透析患者さんのあらゆる医療ニーズにこたえられるように努めています。富士市内の透析施設は日常から災害対策(富士市透析防災ネットワーク)などで一緒に活動しており、たいへん良好な連携体制ができています。

富士市の透析医療の現状

まとめ

 2013年に発足した富士市CKDネットワークは地域医療になくてはならない存在になっています。今では薬剤師会との活動も始まり、ますます多くの医療者が参画してくださるようになっています。当院も本ネットワークを基盤にCKD診療を展開してゆきます。これからもどうぞよろしくお願いします。

関連リンク

富士市糖尿病ネットワーク(別ウィンドウで開きます)