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更新日:2021年5月6日
鏡視下手術は、上部消化管内視鏡(胃カメラ)や下部消化管内視鏡(大腸カメラ)、あるいは胆道内視鏡を用いた治療とは異なります。腹壁あるいは胸壁に通常3から5カ所のポートを留置し、腹腔内あるいは胸腔内に腹腔鏡や胸腔鏡を挿入し、テレビモニターを見ながら、鉗子、電気メスや超音波凝固切開装置などのエネルギーデバイス、自動縫合機や自動吻合器などを用いて病変部を切除したり修復する手術方法です。手術する位置により、胃や肝臓、腸など腹部で行うものは腹腔鏡手術、食道や肺など胸部で行うものは胸腔鏡手術と呼びます。
鏡視下手術イメージ1(腹腔鏡下胃切除)
鏡視下手術イメージ2(腹腔鏡下大腸切除)
鏡視下に体腔内で行われる操作は、基本的に開腹手術あるいは開胸手術で行われる操作と変わりませんが、患者さん側、医療者側双方にメリットがあります。患者さん側のメリットとしては、手術創部が小さいため術後疼痛が少ないこと、それにともない早期離床が可能になること、結果的に入院期間の短縮や合併症の予防が期待できること、開腹・開胸手術より美容的に優れていることなどが挙げられます。最近では、reduced port surgeryと呼ばれるポート数の少ない鏡視下手術や、より細径の機器を使用することで、鏡視下手術のメリットをさらに高めています。医療者側のメリットとしては、通常の開腹・開胸手術と比較して遙かに大きい視野(24インチ~26インチのハイビジョンモニター)を見ながら手術を行うため(拡大視効果)、より繊細で質が高く出血の少ない手術が可能になります。手術時間は開腹・開胸手術と比べると長くなり(約1.5倍)、テレビモニター上での手術(2D)であるため奥行き感が乏しく、手術操作に制約が出る場合があります。この問題に対して、今後当院では立体的視野で手術可能な3Dモニターの導入を予定しています。
外科は多くの疾患を扱う診療科です。当院外科も、消化器外科、乳腺外科、呼吸器外科、血管外科(一部)、小児外科(一部)から成り立っています。現在、鏡視下手術の適応疾患は良性疾患から悪性疾患まで多岐に渡っています。具体的には、食道がん、食道アカラシア、逆流性食道炎(食道裂孔ヘルニア)、胃がん、穿孔性消化性潰瘍、大腸がん(結腸がんと直腸がん)、胆石症、肝臓がん、虫垂炎、腸閉塞、そけいヘルニア、大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニア、腹壁ヘルニア、気胸(肺ブラ)、肺がんなどです。待機手術以外に、虫垂炎や消化性潰瘍穿孔などに対する緊急手術にも可能な限り鏡視下手術を選択します。多くの疾患に対する鏡視下手術を行うことにより、単一疾患に対する手術だけでは得られない内臓疾患に対する総合的理解と技術が身につくと考えています。ただし鏡視下手術がすべての症例に可能なわけではありません。がんが非常に進行している場合(がんが臓器の外に顔を出している、リンパ節転移が多い、遠隔転移があるなど)、ガイドラインでは鏡視下手術は推奨されていません。また、良性疾患でも炎症所見が顕著な場合や癒着が高度である場合には鏡視下手術の継続が困難となり、開腹・開胸手術に移行する可能性が高くなります。
【3Dモニターを使用した腹腔鏡手術】