文字サイズ
標準
拡大
色合い
標準

ホーム > 部門紹介 > 診療部 > 整形外科 > 股関節手術について

ここから本文です。

更新日:2018年4月19日

股関節手術について

はじめに

富士市立中央病院は、地域の基幹病院として多くの整形外科疾患を抱えた患者さんを受け入れています。現在、3人の股関節外科医が在籍しているため、変形性股関節症などの股関節疾患では専門的な手術が可能となっています。
このページでは、股関節症と当院での治療法(特に人工股関節置換術)について紹介します。

股関節症とはどのようなものですか?

股関節症イメージ

健康な股関節は、動かせる範囲は大きく、歩く、しゃがむ、ジャンプするなど様々な動作が可能です。しかし、股関節に問題が生じると動く時に痛むようになり、最後には、ただ立っていても寝ていても痛むようになります。主な原因は変形性股関節症や大腿骨頭壊死症、関節リウマチなどであり、これらを総じて股関節症といいます。
股関節症の初期では、レントゲン検査での変化が少なく、MRI検査でようやく発見されることもあります。長期間、股関節周囲に痛みがある場合は、専門医への受診をお勧めいたします。股関節症が進行すると、レントゲン検査で骨の変形がみられるようになり、それに伴い、痛みや関節の動きが悪くなっていきます。股関節症は慢性疾患ですから完治させることは難しいのですが、いろいろな治療を行って痛みを軽減することは可能です。主治医は症状やレントゲン検査の結果などから、状態に合わせた治療を患者さんに提案していきます。まずは保存療法を行い、その治療で改善されないようであれば、手術を検討していきます。あきらめずに頑張りましょう。

保存療法にはどんなものがありますか?

当院での保存療法としては、「鎮痛剤の使用」、「生活指導」、そして「理学療法」を用いた治療を行っています。
鎮痛剤については、近年の新しい鎮痛剤の登場により痛みのコントロールを行いやすくなりました。以前は手術を必要とされた方でも、保存療法の可能性は高まりましたが、その使用には注意が必要です。将来「骨切り手術※」を検討している患者さんには、極力、鎮痛剤の使用は控えるようにしています。その理由は、むやみに痛みを取ってしまうことで活動性を高めてしまい、結果的に関節の変形を早めてしまうことがあるからです。一方「人工関節手術※」を検討している患者さんには、積極的に鎮痛剤を使用して、活動性の向上と手術療法の先延ばしを目指していきます。
※後ほど紹介します。
生活指導については、杖と体重コントロールが中心になります。一般的に股関節にかかる負荷は、体重の4倍程度といわれています。そのため、体重増加は関節症の進行を加速させるため、適切な体重コントロールが必要です。杖を使用した負荷の軽減や、運動の必要性などについて生活指導をします。必要に応じて食事指導も積極的に行っていきます。

高齢者杖歩行イメージ

理学療法は保存療法として重要な役割を担っています。筋力強化や体重コントロールのためにも運動が必要になりますが、股関節症による痛みで動けない方が多く、自分での運動は困難になります。当院では、運動療法を行いながら、運動の必要性を再認識していただけるようにリハビリを行っています。そして、股関節症によりゆがんでしまった体のバランスを整える「生態心理学的アプローチ」を採用しており、疼痛の軽減を目指しておりますので、主治医にご相談ください。

 

手術療法にはどんなものがありますか?

手術療法は、保存療法での治療が困難な時に行われます。痛みの除去や関節の動きを改善する目的で行われる手術ですが、主に「関節鏡手術」・「骨切り術」・「人工関節手術」の3つがあり、患者さんの年齢や関節症の病期などにより選択されます。自分に合った治療法はどれなのかを専門医にご相談ください。
手術療法を行う際には、当院ではなるべく侵襲の少ない治療法を選択することや、若年者では人工関節を回避することに努めています。しかし、実際には人工関節治療が適応となる患者さんは大変多く、今日の股関節疾患治療の代表的な術式になっています。それぞれの治療法について、以下で説明いたします。

関節鏡手術とは

関節鏡手術は比較的新しい治療法であり、股関節に小さなカメラを挿入して観察・治療を行います。関節唇損傷(しんそんしょう)やFAIと呼ばれる疾患での治療が行われています。現在は、その適応範囲は大きくありませんが、関節内の掃除、骨切除、縫合術などに用いられます。手術の創は小さく、比較的短い入院で治療が可能です。

骨切り手術とは

骨切り手術は、関節温存手術ともいい、自分の骨を使用したまま関節のバランスを改善する手術です。股関節の骨盤や大腿骨を一部切離・移動させることで、股関節にかかる負荷を減らす手術で、年齢や変形の程度により治療の選択は異なります。

骨切り手術 

当院で主に行っている骨切術は、寛骨臼(かんこつきゅう)回転骨切り術です。臼蓋(きゅうがい)形成不全症という疾患で、比較的年齢が若く、変形も軽度な場合に行っています。関節の変形が少ない時に行えば、長期的に痛みのない生活が期待できます。残念ながら再び痛みが出てきた場合、その時点で人工関節手術が可能です。手術後のリハビリは2~3か月程度かかり、仕事への復帰には半年程度かかります。

人工関節手術(人工股関節置換術)とは

人工関節手術とは、変形したり破壊された関節を図の様な金属とプラスチックにより作られた人工関節に取り替える手術のことを言い、股関節に対して行われる手術のことを人工股関節置換術と呼びます。骨盤に人工臼蓋を、大腿骨に人工骨頭を設置します。近年、人工股関節におけるテクノロジーや手術技法、術後管理システムは大きく進歩しており、手術の安全性、確実性の点でとても信頼できる治療法となっています。

人工股関節イメージ

人工股関節置換術の方法は、骨と人工関節をどのように固定するかによって大きく2つの方式に分けることができます。ひとつは骨セメントという固定材料を用いる方法(セメント人工股関節)、もうひとつは骨セメントを用いずに骨と人工関節の直接結合をめざす方法(セメントレス人工股関節)です。世界の動向としては、人工関節技術が発展を始めた当初の1970年代から1980年代にかけてはセメント方式が主流でしたが、1990年代から2000年代へとセメントレス方式が大きく見直されて主流となり、今日、国内で行われている人工股関節の75%以上がセメントレス方式で行われています。
当院では、セメントレス人工股関節を中心に使用しておりますが、骨の変形や骨粗鬆、そして活動性などにより手術方法や人工関節を適切に選択し、治療を行っています。

人工股関節置換術による効果

人工股関節置換術を行うと、股関節の動きが良くなるとともに股関節の痛みが大きく和らぎ、以下の効果が期待できます。

  • 脚の力が強くなります。股関節の痛みがなくなれば、もっと脚を使うことができますので筋肉が付いてきます。
  • 日常生活の動作や、運動がずっと楽にできるようになります。
  • 適切な使い方と定期検診が必要ですが、長期間の使用に耐えることができます。一般的には、20年程度の耐用年数といわれています。
  • 手術前と比べて、椅子への腰かけや敷居をまたぐなどの日常生活動作が楽になることが期待できます。
  • 今まであきらめていた運動、旅行などができるようになります。

人工股関節置換術 

当院における人工股関節置換術について

当院での人工股関節置換術は年間50件程度行われています。手術は、主に後方進入法(大腿骨の後ろから股関節にアプローチする方法)を採用していますが、症例により前方進入法での手術も可能です。手術の傷については、患者さんの痛みの軽減、早期回復、そして、美容的メリットのために、侵襲は最小限にとどめる努力をしており、通常10cm程度の皮膚切開で行います。また、人工関節の種類は、股関節の変形の程度などにより選択していますが、いわゆるセメントレスステムといわれるものを臼蓋・大腿骨に使用しています。手術後のリハビリは、手術翌日から車椅子への乗車を行い、歩行訓練を経て、約3週間でT字杖を使用しての自宅退院となります。

当院での手術決定から手術までの流れ

股関節手術を行う場合は、骨折治療と異なり、十分な検査を行ってから手術を行います。
通常、全身麻酔にて手術を行うことが多く、そのための検査を4週間前から行います。その結果によっては、内科や循環器科などへ精査を依頼します。また、人工股関節置換術や骨切り手術では多量の出血が予想されるため、患者さん自身の血液を輸血できるように事前に血液を採取保存する処置を行います。これを貯血といいますが、適応には年齢・基礎疾患・貧血の有無などいくつかの条件があります。股関節の評価は、レントゲンのほかCTやMRIなどの特殊検査と理学療法によって術前に確認した活動能力により行われます。

当院での新しい治療の試み

当院では様々な治療が行えるよう2016年に骨バンクを設立いたしました。
患者さんから提供いただいた骨に特殊な処理を行い、ご自分の骨だけでは手術ができないような場合に使用可能です。この骨バンクの設立により、今までは大学病院などに紹介しなければならなかった症例についても当院で手術可能となりました。人工股関節再置換術や重度な骨折などの巨大な骨欠損を伴う症例にも使用し、安全で安定した医療を提供しております。